［PIM］田中せり「粒をレイアウトしてみる」

プリンティングディレクター山下俊一

INTERVIEW ｜ 2019.04.12

田中せり（たなかせり）
アートディレクター / グラフィックデザイナー
1987年、茨城県生まれ。武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒業。電通4CRP局所属。企業のブランディング、CI、グラフィック、パッケージなどのデザイン、プロジェクトの企画などを手掛ける。

— 今回の作品のコンセプトを教えていただけますか？: 田中：「粒をレイアウトしてみる」本来、印刷には計画とそれに対する正確さが求められます。しかし、インクの吹き出し口と印刷台の間に無関係な物を置くことで、その予定調和を壊すことに挑戦しました。印刷に対する「いたずら」のような行為を重ねることで、作者にも機械にもコントロール不可能なレイアウトが完成しました。B0ポスター4点は、印刷時に紙の下に棒を配置。山なりになった紙とインクの吹き出し口の間には本来あるべきでないあそびの空間がうまれます。噴射されたインクの粒たちは宙を舞い、印刷機の気流に流され、本来着地する予定のない位置に定着され、インクジェットプリンターが描くペインティングのような表情をみせます。一方、インクの吹き出し口に近い山の頂点のみに正確な像が浮き上がります。B1ポスター3点は、印刷時に紙の上にロープを配置→印刷→ロープを再配置→印刷。そこに存在していたオブジェクトの痕跡を層で重ね、一回性のレイアウトを定着させました。今回の試みは、人間に操作される機械という関係値から解放された、機械独自の描画表現ともとらえることができます。

— UVインクジェットと紙の魅力はどんなところですか？: 田中：粒のレイアウトです。印刷の大半は版から紙へ接触して転写されることで印刷されていますが、UVインクジェットプリンターは紙と接触せずインクの噴射によって印刷されます。今回の制作で、インク一粒一粒の正確な噴射位置によって精細な像を作り上げるインクジェットプリンターの高度なテクノロジーを再確認しました。一方で、たった数センチのズレによって絵画のような表現に変貌することがわかり、両極端の魅力を同時に感じることができました。今回のメンバーは3人3様の着眼点だったので、八木さんの作品からはマルチマテリアルになりうる可能性、小柳さんの作品からは形状を問わず印刷ができることからアップサイクルの可能性、全く違う視点の魅力を教えてもらいました。

— 今回の作品で大変だった所はどこでしたか？: 田中：仕上がりが想像できないこと。本来、入稿データはデザイナーが作る回答用紙のようなものですが、今回は回答を作らない、というか作ることができない。どうなるかわからないけれど面白い現象が起こりそうな仕掛け（いらずら）を考え、毎週違うモチーフを持ち込んではトライ＆エラーを重ねました。実際、ロープを扱ったB1ポスターの作品の試作中に起きた予想外のエラーから、像がほけるB0ポスターの作品を構想し始めました。たくさんの予想外が起こるたびに「見たことない。面白い。」と肯定的に受け止めてくれるショウエイの山下さん、歌丸さんにはとても手間のかかる印刷をしていただいたので、懲りずにお付き合いいただき感謝しかありません。

— 作品のMANIAな部分を教えていただけますか？: 田中：1つは、ギャップです。印刷機ってそもそも覆われていて中で何が起こっているかわからないものだと思っていました。ショウエイを工場見学した際、印刷物がむき出しで印刷されていること、そして今回の肝であるインクの吹き出し口の距離（私たちの中で通称：ギャップ）を最大50mmまで調節できることを知り、そのギャップに異物を挟んだときにどの様な現象が起こるのだろう？と思い今回の作品を試みました。もう1つは、気流です。インクの吹き出し口であるヘッドが動く時に起こる気流にインクの粒が流され、ブラシストロークのような描画がうまれていることも大きな発見でした。コントロール不可能なこの作品は、本来同じものを繰り返し生産するはずの印刷機で作った一点ものの作品となりました。

— 今後、PAPER＆INKJET MANIAとして、どのように活動をされていかれますか？: 田中：「粒をレイアウトする」で次の作品を構想中なので、しばらくこのシリーズを続けたいと思います。Paper & Inkjet Maniaの活動では予想外を肯定し、興奮するものにただ身を任せて作りたいと思います。